私が恋した男〜海男と都会男～
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」

　姫川編集長が静かに手を合わせると大守さんが食器を下げて洗い始め、姫川編集長は湯呑みに入っているお茶を一気飲みした。

「大守さん、今日の料理に使われた材料を大守さんが全て仕入れているそうですが――」

　姫川編集長は大守さんと会話をし始めるけど、何やら私の方をチラチラ見ながら口パクする。

『メ･モ』

　口の動きからしてそんな言葉を言っているように見え、私は慌ててバックからメモ帳とペンを取り出した。

　取材の合図なんて無しだし、ちゃんと言ってよ！と内心モヤモヤしながら２人の会話をレコーダーとメモに記録していく。

「この地域でお店を出すきっかけは――、お客様の客層などは――」

　姫川編集長は今まで黙っていたのが嘘のように饒舌でいて、大守さんに取材をしている。

　私はファッション部にいた頃は相手のペースに合わせて会話をしたりしてたけど、姫川編集長はペースが速くてメモに書く文字のバランスが整わない。

　姫川編集長は次から次へと質問や雑談を交え、メモ帳はあっという間に文字で埋め尽くされていった。

「今日はこの辺りで、また取材に伺います。九条、記憶が鮮明な内に四つ葉出版社に戻るぞ」
「はい。大守さん、本日はありがとうございました。ご飯、とても美味しかったです」
「また来てくださいね、取材抜きで歓迎します」

　私たちは席を立ち、お会計を済ませて【もりや】を出て四つ葉出版社に戻っていった。
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