私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「……」
「……」

 特に会話をすることもなく歩き続け、S駅の改札まで来た。

「今日はありがとうございました」
「明日からもよろくな、お疲れさん」
「はい」

 私はお礼して改札に入り、ホームへ向かう。

 到着した電車に乗ってドアの側に体を預けながら、さっきのお店のことを思い返す。

 そういえば男性とああいうお店で食事をしたなんて、いつ振り?元彼と別れて以来だから…かれこれ2年くらいになるし、その後はしょっちゅう茜と飲んでいたから、あのお店の雰囲気は素敵だったなぁ。

 きっと姫川編集長は仕事柄色んな街を取材してお店にも詳しいはずだから、まさに"都会男"という感じがする。

「見た目は怖いけど」

 つい本音が出ちゃった。

 それでも今日私に見せたのはいつもと違う顔で、そのギャップに戸惑う。

『バレたら仕事とかやりづらいし、別れた後でも一緒に仕事をしなくちゃいけないんだよ?社内恋愛って苦手だなぁ』

 ふと、昨日の女子会で茜が繰り広げていた恋愛論を思い出す。

 いやいや、姫川編集長と社内恋愛なんてありえないし、茜の言うとおりで仕事がやりづらいよ。

 それでも頭に浮かぶのは姫川編集長が見せた笑顔で、それを振り払うように瞼をぎゅっと閉じて何度も顔を振るう。

 暫らくは仕事を頑張るんだから、変に意識しない!!と言い聞かせながら、アパートへと戻っていった。
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