俺の妹が可愛すぎて。


* * *



父さんと喫茶店で話したあの日から一週間…

優花の様子が変だった。


その前から急に成宮と別れてきたとか言い出すし、急に暗くなって泣き出しそうな顔したりして様子がおかしい。


だけど、俺だって人のこと言えなかった。

優花にも心配されていたし、晴や持田だって「なに、暗い顔してんだよ!とり憑かれんぞ!」って背中を思いっきり叩かれたりしていた。


外ではあまり考えないようにしてんのに、ふと思い出すのはあの日の父さんの顔。

そして……その一方で考えるのは、優花のことだった。










「……ユキ、今日部活ない日だから…家来ない……?」


ある日の放課後、そう声をかけてきたのは透子だった。


「……へ?家?……なんか、珍しいじゃん…。……透子ん家なんて小学生の時以来行ってねぇかも……わっ、ちょっ!透子」


行くか行かないか、まだ返事もしていないのに、透子は「行こ」と言って俺の手を引っ張る。

慌てて机の上の鞄を取ろうと思ったら、今度は隣の席の優花が俺の鞄を引っ張っていたから動けない。

俺の鞄を引っ張る優花の表情は、少しだけ拗ねているような……例えるなら、お菓子を取られた子供みたいな表情をしていた。


「……優花?」

「……栗原さん、何の用?」


俺が疑問に思ったのと同時に、冷たい口調で透子が俺の前に立つ。


優花と透子はなんだか睨み合ってるかのようにも見えた。


……なに?


こいつら、喧嘩でもしてんの……?


「……用があるなら、はっきり言ってくれる?……栗原さんって、いつもそう。……言いたいことはなかなか言わない。誰かに構ってもらえるのを待ってる感じ。可愛い顔してるからって、周りの人から構ってくれるのを、そんな表情して待ってるんでしょ?

………あたしとユキが付き合ってるから、『お兄ちゃん』を取られて、ユキが構ってくれなくて寂しいの?」

「……透子…」


いつも冷静沈着な透子が、そんなこと言い出すなんて透子も変だ。

何が気に食わないのかわからないけど、女同士の喧嘩ってこえぇーって思った。


透子から睨みつけられ、何も言い返さなかった優花は鞄からパッと手を離したかと思うと、急に泣き出しそうな顔をして、教室を飛び出して行った。






< 253 / 315 >

この作品をシェア

pagetop