あなたが作るおいしいごはん【完】

『…昔から萌絵ちゃんは
美味そうに食べてくれるね。』

いつの間にか彼は

オレンジジュースの入ったコップを

ストローまでさして

おぼんごと私の隣に置いてくれた。

「…あっ、ありがとう。
おいしいよ…カズ兄ちゃん。
食べてると何だか懐かしくなって
小さい頃良くカズ兄ちゃんのお家で
カズ兄ちゃんの作ってくれたごはんを
思い出しちゃった。
…この《海老カツ》も
カズ兄ちゃんのお家で初めて食べた時
“こんなおいしいものがあったんだ”って
思ってから好きになったんだもん。」

「……そうなの……か?」

私の話に彼は一瞬キョトンとした。

でもすぐに柔らかな微笑みを浮かべて

『…それは初耳だけど嬉しいよ。
この《どら焼き》と
《海老カツサンドイッチ》はね
教室でも必ず実習メニューに
組み込んでて、生徒さんに好評なんだ。
“難しく考えてたけど
意外に自分でも作れるんだと
わかって良かった。”とか
萌絵ちゃんみたいに
“これを機に好きになった。”とか
言って貰えると
この仕事をしていて良かったと
心からそう思うよ。』

彼は微笑みながらお茶を一口飲んだ。
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