桜の木に恋の花咲く
 にこにこと微笑む少年を、眉をひそめて少女は怪しんだ。
 なぜなら、彼が着ているものは、およそ同世代の男子が普段着ているような服装ではなかったからだ。

 彼は和装……つまり、着物を身につけていた。
 それも、男子が着るような色ではない。それは、桜色と表現すべきものだった。

「な、何なのあんた……? ていうか、木は!? 桜の木どこ行ったの!?」

 顔をひきつらせて、少女はあとずさりした。
 彼女自身は、高校の制服……黒地に赤いラインが入ったセーラー服を身につけている。

「あれ? わからない? 僕が桜の木だよ。キミのおかげでこの姿になれたんだけど」

 両手を広げて少年は言った。
 相変わらずにこにこと微笑んでいる。
 少女がいぶかしんでいることなど気にも留めていない。

 少女はまた溜め息をついた。
 だが、その溜め息の意味は今までのそれとはまた違っていた。
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