桜の木に恋の花咲く
 その返答に、少年は目を見開いて驚き、やがて目を細めて満足そうな表情を浮かべた。

「キミみたいな答え、珍しくはあるけど何度か聞いたことがあるよ。そっか。わかった」

 少女は顔を上げた。
 少年の柔らかな笑顔がそこにあった。
 どこか片思いの相手、彼女の先輩に似た優しげな笑顔。

「だけど、困ったな……。あそこに桜の木がなくなったらみんな不審に思うよね……?」
「え……?」

 そうは言っても、あごに手を当て、考え込む様子の少年は、本気で困っているようには思えない。
 それどころか、どこか楽しそうに見える。

「僕、キミのことが気に入っちゃった。もっとずっとそばにいたいと思っちゃった」

 少女はドキッとした。
 異性にそんなことを言われたのは初めてのことだ。
 しかも、相手はかなりの美少年だ。
 まあ、出自がわからない怪しい少年ではあるが。

「え、えっと、木を戻せないってこと?」
「僕自身があの桜の木だからね。こうして人間の姿になっていたら、あそこにはいられないよねぇ」
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