ひつじがいっぴき。

なんて布団の中でいろいろ考えていると、勢い余ってわたしの指が通話ボタンを押してしまった。


うわっ、わたしのバカ!!

何で押したのっ!?


早く電話切らなきゃ!!




そうやってひとり、布団の中で焦っていると……。


『はい、井上です』

しっとりとしたあの声がスマートフォンから聞こえてきた。

だけどわたしは勢いで通話ボタンを押してしまっただけ――。

井上先生と何を話そうとかまったく考えてなかった。


だから当然、画面を見ながら口をぱくぱくさせて無言のままなわけで……。


『もしもし?』


そんなわたしの姿も見えない井上先生は、少し困っている口調になっている。


ああ、どうしよう。

イタズラ電話かと思われてしまうかも。


そしてわたしの電話番号を着信拒否されて……。


そうなったらわたし、一生アラタさんの声が聴けなくなってしまう。

そんなのイヤ!!


焦るわたしは、よけいに何も言えなくなってしまう。


『もしかして中山さん、かな?』

その言葉に――。

声に――。


びっくりした。


だって、わたし。

何も言ってない。

それなのに、井上先生はわたしだってわかってくれた。

しかも、そう言った井上先生の声が、CDコンポを通して聴こえるアラタさんよりもずっとずっと優しくてあたたかくて……。


「…………はい」


< 18 / 37 >

この作品をシェア

pagetop