遠くへ行く君、見送る私
遠くへ行く君




 ――――あのときはずっと続くような気がした。



 高校生活はあっという間なのだろうか。
 入学した当時、着なれないブレザー姿を鏡にうつしながら思った。

 中学はどうだっただろう。
 あっという間といえばそうなのだろう。けれど入学したときは三年というそれが何が起こるかわからないし、見えない不安のかたまりのように思えて「どうなるんだろう」としか思えなかった。

 算数が数学にかわって、いろんな人と関わって。
 一年一年、過ぎていった。

 楽しくて大声で笑ったことだってあったし、泣いたことだってあった中学のときのように、高校でも私はそんな経験をしていくのだろうと思っていた。




 私は部屋で一人、壁にかかったままのブレザーを見ていた。

 胸元には"卒業おめでとう"の文字が入った飾りがつけられたまま。
 三年着たそれは、きれいではあるもののどこか、くたびれたような、それでいていろんなものがつまっているように思えて、まだクリーニングに出せずにいた。

 クリーニングに出してしまうと、きれいになって戻ってきてしまうから。
 なんだかそういう、思い出というか、そんな雰囲気さえもきれいになってしまう気がして私はまだためらっていたのだ。



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