丸くなっているんだきっと
タイトル未編集
ホテルでのバイト

まだ始めて2ヶ月
まだまだ新人だ


でも世話係の先輩がとっても優しい
櫻井さんといって、わからないことを丁寧に教えてくれるし
ミスをしたら、ときには厳しく注意し、ときには優しくフォローしてくれる

いつもあたしが困っているとき声をかけてくれる


仕事もできるし人望も厚い


すごくすごく憧れだった


そんな櫻井さんは目を丸くする癖がある
「え、俺が?」とか「へぇ!」とか

そんなところも非常にかわいらしい


ある日の披露宴
いつもの通り仕事をして、いつもの通り余興が盛り上がっていた


そんなとき、酒臭いおじさんが近づいてきた
「ねぇちゃんもかしこまってねぇで一緒に盛り上がろうぜぇ」
「ちょっ」
肩を組まれた、太ももを触られる


暗い余興の中、誰も気づかない


どうしよう…
ゾワッと悪寒が走る


「お客様、困ります」
そのお客の後ろからぬっと櫻井さんが出てきた



どうして

どうしていつも櫻井さんなんだろう


守るようにあたしの前に立つ

「はぁ!?俺は楽しくやろうって言ってるだけだぜ?」
「私たちはホテルマン。披露宴でサービスをするのがお仕事ですが、例えお客さまでもそういった行為は考えられません」
明らかに怒りがこもった声


目の前に
大きな背中が見える
必死な形相の横顔が見える


「んだお前客に向かって!」


「どうされました?」
騒ぎを聞きつけキャプテンがやってきた
櫻井さんが事情を説明する

「後は俺が収拾するから、裏行って落ちつかしてきて」
「…はい」




櫻井さんと2人、部屋の外の廊下に出る



「くそっ!!」
「……………」

「大丈夫?」顔をのぞき込まれる


全身がわずかに震える
「櫻井さん」
目に涙がたまる

それを見て、焦る櫻井さん



「大丈夫、大丈夫だからな。落ち着くまで俺、ずっといるから」




「櫻井さん…」
「ん?」優しい相づち









「…好きです」




あたしはくるりと背中を向け
走りもせず、振り返りもせず、とにかく離れようと廊下を歩いた


櫻井さんの反応はわからない
でもいつもの通り、目が丸くなっているんだきっと
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