桜まち 
歓喜





  ―――― 歓喜 ――――




櫂君のおかげで翌日には熱もだいぶ治まり、体も楽になっていた。
そうなってくると、五月蝿く声を上げ始めるのが私の胃だ。
なんせ、あのあと櫂君が作ってくれたおかゆを食べただけで、他には何も口にしていないのだから。

とりあえず、いっぱい汗をかいたこともあって、午前中は熱々のお風呂にゆっくりとつかり汗を流した。
体がすっきりしてから熱でまだふわふわする頭を抱えて、昨日櫂君が買ってきてくれたお惣菜をみてみる。

気の利く櫂君が冷蔵庫にしまってくれたのを引っ張り出し、どれにしようかな? なんてウキウキしながら考えているとインターホンが鳴った。

「ほいほい。どちらさまでしょう?」

櫂君が心配して、今日もまた様子をみに来てくれたのかな?

軽く考えてインターホンに出ると、望月です。なんて声が聞こえて来て、思わず背筋がぴんと伸びる。

「は、はいっ。ちょっと待ってください」

インターホンに向かって言ってから急いで玄関に向かったけれど、パジャマ姿とすっピンだということに気づいて慌てて踵を返す。

「どうしよう」

声に出しても今更高速で化粧もできないし、着替えるっていったって、可愛い服など咄嗟に出てこない。

普段からこじゃれた恰好ばかりをしていれば、こんな時に慌てふためくこともないのに。

後悔してもこの緊急時にどうすることもできないので、仕方なく顔はマスクをして誤魔化し、パジャマの上には羽織ものを着てほんの僅かだけドアを開けた。

「あれ? 風邪?」

玄関ドアの隙間から顔を見せると、ダウンのポケットに両手を入れたままの望月さんが寒そうに訊いてくる。

「あ、いえ。はい」
「どっち?」

曖昧な返事をすると、ぷっと吹き出されて笑われてしまった。


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