桜まち 


「なに、にこにこしてんの?」
「幸せだなぁーって」

「そんなにうどんが好きか?」
「違いますよ。望月さんとこうしていられるなんて、私にしてみれば夢みたいな話ですから」

「こんなのが夢なんて、小さすぎるだろ」
「いえいえ。私は、多くを望みません。つつましく生きるのです」

冗談めかして言うと、クツクツ笑われた。
すると、持っていたうどんの器を置いて、望月さんが私をじっと見る。

はて?
首を傾げてその目を見ていると、小さく囁いた。

「もっと幸せにしてやろうか?」
「え?」

思う間もなく重なる唇に、私の目が見開いた。

嘘っ……。

余りに一瞬のこと過ぎて、体が固まってしまう。
触れた唇はまだそのままで、ほんのり煙草の香りがしている。
その香りを残したまま、望月さんの顔がゆっくりと離れていった。

今……何が起きたの……?
私、キス……された……よね。

望月さんは、いつまでも目を見開いたまま動こうとしない私に、優しい笑みを浮かべている。


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