桜まち 


が逃れられない櫂君の腕の中でどうしたらいいかと迫り来るキスに動揺していると、突然お隣のドアが開いた。

「あ、悪い。取り込み中か?」

望月さんが、開けたドアを再び閉めようとしているので、私は慌てて説明をした。

「あっ、違います、違います。この子、非常に酔っぱらておりまして、一人で歩けないような状況なんですが、今から帰るところなんですっ」

望月さんの顔を見た瞬間に、動揺を隠し切れずによく判らない説明をしてしまう。
こんな場面を見られてしまったことに、ドキドキの種類が変わった。

お願いだから、勘違いしないでください。

祈るような、縋るような気持ちで望月さんを見ていると、ドアを開けて出てきてくれた。

「一人で歩けないのに、どうやって帰るんだ?」

もっともな質問です。

「どうしたらいいですかね? 終電がなくなりそうなので、とりあえず連れ出したんですけど、一人で歩けなくなってしまったのかこんな状態で」

さっきまで人のことをじっと観察でもするみたいに見ていた櫂君は、私の首元に顔を埋めて静かに呼吸をしている。
顔を覗き込んで見てみると、瞼は閉じていた。

「え……。寝てる?」

思わず呆れてしまった。

頼みますよ、櫂君。
寝ちゃうとかなしだよ。

お酒は飲んでも飲まれるなってね。
まぁ、げえぇってされるよりかはいいですが。

それに、危うく大事故が起きるところだったし。
櫂君とキスなんて、ドッキリかと思っちゃうよ。


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