桜が咲く頃~初戀~
その晩香奈はおばあちゃんに聞いてみた。


『バアちゃん身体しんどいのん?』

火鉢に左手を軽くかざし手のひらをゆっくりと揺らしながら右手に持っている火箸で火鉢中の灰をコソコソとかき混ぜていたおばあちゃんはその動きを止めて暫く黙っていた。とても静かな夜だなぁと香奈は何と無く思う。

『バアも年やけんな身体も日に日にガタが来とる。何も無いし香奈は我の事だけ考えとったらえい。心配ないない』

そう言ってニッコリ笑った。

『そやかて、バアちゃん私は心配やねんで何でしんどいんか?教えてくれな分からへんやん』


その時の香奈は今までのもやもやしていた自分の気持ちに気がつき解ったのだ。誰かを思いやり労わる気持ちを自ら拒否して来た事が香奈を深い孤独にしていた事を。大切なのは自分だけでは無く自分が愛せる人を信じる事なのかと考えた。

それと同時に人を労る、大切に思う、愛するって気持ちは胸を落ち着かせなくなる事も知った



『香奈。バアの肩を揉んでくれんか?畑仕事で疲れとるんかも知れん』

そう言うとおばあちゃんは香奈に小さく縮んでしまった背中を向けた。香奈はその背中を包むかの様に優しく肩に手を掛けた。

『バアちゃん気持ちええ?』


香奈がそう言うとおばあちゃんは『うんうん』と頷いた。

香奈はその背中を見ていると何故だか泣きたくなって来た。



『香奈。もうえいよ随分楽になったし』

香奈はおばあちゃんの声に我に返った。おばあちゃんは自分の肩に乗せた香奈の手のひらより二周り小さなおばあちゃんのシワシワになった手を香奈の手に重ねて優しく摩りながら優しく笑っていた。







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