やまねこたち
妹の初失態



□ □ □



真夜中の外の寒さに、思わず震えた。
歩いていて太もものところまでだんだん下がってきた靴下をぐい、と上げる。
露出面が少しだけ少なくなって、足の温かさは確証できた。
それでも何故か全身は震える。今日はどんだけ寒いんだ。

人通りのない道を、ひたすら歩いていく。

ジャケットの中にたくさん隠し持っている武器を握り締めて。

今日のターゲットは、女だった。
裏の世界で大分やばい風を吸っている、中年の女。
彼女が操る麻薬の仕業で、何十人もの人間が死んでいる。

依頼者はお贔屓さんだった。
パパはあたしを選んだ。

1番年下のあたしは、いつも誰かとペアを組まされることが多いけど、今日は1人。
ターゲットが女っていうことも関係してると思う。

「…さむっ」

もう少しで目的の場所につく。
どうしても昂ってしまうこの感情は、どう説明したらいいんだろう。
でもこの感情を、山猫のみんなはわかってくれる。
あたしには、山猫しか居場所が無い。

目的の場所に着いて、あたしは静かにその家の周りをぐるっと一周した。
あくまでも自然に。見ているかなんて感じさせないような。

勿論真夜中で人は居ないし、ここは田舎だから警察も居なかった。
おかしいな。もう少し都会はおまわりさんがたくさんパトロールしてるのに。
あたしが言うのもなんだけど、やっぱり住むのは安全な都会がいいと思う。

一周回ったところで、どこから侵入するかを決めた。
ここはどの家からも死角で、おまけに街頭が離れている・
そしてこの塀の高さなら、足をかけなくても跳躍力で侵入できる。

あたしは体をかがめて、一気に飛び上がった。
予想どおり、塀には1ミリも触らず敷地内に入る。

音を立てないで、敷地内を歩き回った。

耳と目を澄ませる。
音はしない。寝ているか、人が居ないようだった。

あたりを見渡す。
普通の家よりは大きいって感じだった。大体山猫の家と同じくらいの大きさだと思う。

手に持っている銃にサイレンサーがついているのを確認して、あたしは敷地内を一周する。

女は2階に居る。
電気はどこにもついていない。
調べによると彼女は独身で、この家には1人で住んでいるはずだ。
それに、この家に女以外の人間が居ても、あたしには関係ない。
そいつも一緒にするだけ。

どこから入ろうかな。

玄関と反対方面に、リビングの窓と思われる入り口を発見した。

大きさも丁度いい。
きっとあの材質は防弾ガラスだ。
流石麻薬商人、そういうところはしっかりしてるのな。
勿論、あたしだって油断して来ているわけじゃない。

いつも暗殺の依頼をされる人間は、それ相応の行動をしている。
つまり、異常な人が暗殺を依頼される。
ここに住んでいる女も、例外じゃない。
警備システムはばっちりだった。
まあ勿論、あたしは今まで警備システムがないような人間を殺したことはないけど。
殺される側も、「もしかしたら殺されるかもしれない」という疑念を抱いて生きているのだ。そういった行動をしているから。

厳重にかけられている鍵の内部をしっかりと見た。
これは厄介なタイプの鍵だ。壊さないように、慎重にやらないと。

ここで、山猫全員が使っている鍵はずしの術を使う。
使うものは、細い針金と、長い木の棒。どちらも簡単に捨てられて、手に入るのがいい。

数十秒で、鍵はあっさりと取れる。よし、壊れていない。
ゆっくりと窓を開けて、室内に侵入した。その際、勿論窓は閉めて。

階段をゆっくりと上っていく。
2階に上っていくつかの部屋の前で止まった。

どの部屋にターゲットがいるのか集中してみる。

先ほど外から見たところ、カーテンが閉まっているのは2室。

どちらかが寝室と考えたほうが妥当。
外からみた角度と、部屋から見た角度を照らし合わせて、まずは2室に絞った。
ここまできたら、あとは勘だ。

左の扉を静かに開けた。

奥のほうにベッドが見える。
やっぱりあたしの勘は間違いない。

そう思いながら、ゆっくりと足を進める。


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