アルバイト執事にご用心
予定どおり2人はミュージカルを見た後は劇場近くのレストランで食事をして、海上の遊覧船に乗った。


「やっぱり海風って気持ちいい!」


「気に入ってもらったなら何よりだよ。」


「いい思い出になるわ。」


「えっ?」


セイはちょっと驚いてクレアの方を見た。


クレアはすごく困った顔をしている。



「何か気に障るようなことをしたかな?」


「ううん、違うの。
きっとデートって楽しいんだろうなってわかったから十分だなって。」


「十分なんかじゃないっ!
もっといろんなところへ連れていってあげたいんだ。」



「私はまだ学生だし、そんな気を遣ってくれなくていいですから。」


「そんな・・・俺はそういう気は遣ってないよ。
つまらなかったらつまらないっていってくれていいんだ。」


「つまらなくはなかったです。おごってもらったりで申し訳ないくらいです。
だけど・・ごめんなさい。
私はこういうのはもうやめておかないと。

ありがとうございました。さよなら。」


「クレア!!」



それからセイは店に顔を出さなくなっていた。

クレアもそれでよかったんだと理解してふだん通りの生活にもどった。


店にいるときに、アベルが笑顔でセイのことを話しかけてきた。


「君にぞっこん君はどうやらあきらめちゃったみたいだね。」


「そういうのじゃありませんから。」


「でも、デートしてあげたんだろう?」


「してあげたなんて思ったことはありません。
私なんか誘う人もいませんでしたから。

すごくうれしかったし、いい思い出になりました。」


「そう言っちゃったの?」


「はい。」


「あらぁ・・・そりゃ、セイも悲しかっただろうね。」


「すみません。
きっと誰でも同じことしかいいませんから同じです。」


「何かわけあり?そうだね。」


「思い出してしまったんです。
学生の本分は違うだろうって・・・。」


「君の執事君のお言葉?」


「ええ、もともとは父の言葉なんですけどね。
ちゃんと大人の女性になるまでは、デートに出かけてはいけないって。」



「あらぁ・・・かなり固いお父さんだね。」


「そうですか?
学生をしている間は学業が本質ですし、何度もデートに行くと男の人は豹変しちゃうからってよく言われました。
私そういうのは・・・困りますし。」


「なるほど。よく教育がなされたご家庭のお嬢様だな。
じゃ、あらためて申し込もうかな。

僕と今度の週末、デートしよう。」


「な、何をきいていたんですか?
もういいって言ったじゃないですか。」



「だめだめ、僕はこれでも教育者だけどね。
そういう付き合い方してると大人になってから誰かと真剣に付き合おうと思ってもつきあえなくなってしまうよ。

もちろん、夜に出歩くとか行っちゃいけないところにはいかないのは当たり前だけどね。
硬すぎるのも考え物なんだ。
なぁ、近くでいいからなんか食べに出よう。

美術館なんてのもいいよ。」


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