アルバイト執事にご用心
自分の部屋にもどったクレアは自分のベッドで泣いていた。

もしかしたら見た光景は誤解だったのかもしれない。

小さい頃にも、ロイの後をついていったら女性がいなかったことはなかった。

ゼイルも自分が望まなくても女性に囲まれていることはある・・・。


だが、結婚式をした日に自宅にまで招いて、会うだけでもよくないことなのに、あんなこと・・・。

何度いろんな誤解パターンを考えてみても、今は何も頭に入らない。



(少し頭を冷やそう。
そうよ、お父様だって、難しい仕事をしているときは誰も寄せ付けずに寝ころんでいたことがあったじゃない。

明日になったらメイドや庭師まで事情をきいていけば何かわかるはず。)


結局、その日はゼイルも部屋に来ることはなく、クレアはひとりぼっちでベッドで寝転がったまま翌朝を迎えることになった。



朝、食事にいくと、メイドたちが気まずそうに自分をみていた。


(やっぱり何でもわかっているのかもしれない・・・それなら、こっちからきけばいいのよね。)



「ねぇ、ゼイルはどこへいったの?」


「ダンナ様は急ぎの仕事があるからって会社へ行かれました。

詳しいことはそちらにお手紙にしてあるとのことでした。」



「えっ・・・?手紙?いまどき?」


「よかったですね。メールが当たり前の時代に手紙なんて。
なにやら、デジタルなものは細工されやすいとか、買収のときに誤解を受けているとかおっしゃってましたけどねぇ。」


「えっ?」



あわててクレアが手紙を開いてみると、



クレア、とても怒っているだろうね。

見られたことは事実だし、弁解の余地もない。

しかし、心はいつもと変わりない。

じつは、会社を買収しなければいけないことがあって、知り合いの会社を買収する予定だった。

それなのに、いざ話をすすめようとしたところで、別の会社が買収してしまっていたんだ。


そのときの条件が悪かったらしくて、会社の社長は自殺して、社長夫人は精神的におかしくなってしまったらしい。

それで、社長夫人の妹が勘違いして俺の家庭を破壊しにきたという次第だ。

そんなことを細かく説明したところで、学生の君にはどこまでわかってもらえるのかわからないけど、とにかく会社にいってこの問題は詳しく調べなおすつもりだ。

それまで、留守にする。

すべて俺の不手際が原因だから、俺がいない間は何をしてもかまわない。

だけど、リックの店には行ってほしくない・・・。

アベルや常連客と仲良くしてるところを見るのは、君が逃げたときとたぶん同じ気持ちになるんだ。

すまない、こんなこと言える立場じゃないけど。


それと、メールなどのデジタル機器を使った通信文は信じないでくれ。
帰れないときは手紙を書く。
俺の字の特徴をよく覚えておいてくれ。
この字以外は俺じゃないと思ってくれていい。


行ってきます。


ゼイル・ナルソン・ナーガスティ
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