アルバイト執事にご用心
ゼイルはしばらくクレアの瞳を見つめてから、深呼吸をしてまた話を続けた。


「俺は君が兄貴の結婚式のときに声をあげて泣いていたのをみたとき、心が張り裂けそうだった。

あのとき、わかってしまったんだ。

自分がどうして、新しいお菓子や飲み物のメニューを兄貴に提案していたのか?

自分ではいっしょに遊んだこともある、小さな妹みたいな娘にご褒美みたいな気持ちで新メニューを提供していたつもりだった。

それなのに、いつのまにか俺の考えたお菓子を幸せそうに食べている君の顔を見るのがとても幸せだったんだ。


次も食べさせてあげたいと思った・・・。

人のために何かするっていいなって思ったときでもあった。

だけど・・・結婚式で君の本気の泣き顔を見て、俺の思い出はすべて崩れ落ちてしまった。」



「ゼイル・・・突然どうしたの?
私は、もうロイのことはもう・・・。」



「わかってるさ。これだけはいっておきたいから、黙ってきいてくれないか。」


「うん。」


「君の気持ちがどこにあったのか知ってもなお、クアントの会社を継ぐ決心をしたのはやっぱり君の笑顔を見たかったからだ。

たとえ、俺を愛してくれなくてもいいから、そばに居たいと思った。

兄貴には簡単にバレてしまったけど、兄貴も応援してくれて今がある。

もし、別の男を君が本気で好きになってしまっても、俺は逃げないって決めていた。」


「強いのね、ゼイルは。」


「いいや、未練たらしいだけさ。
ずっと兄貴の裏で君の笑顔だけ見て暮らしてきたから、慣れっ子になっていたのかもしれない。

なぁ・・・結婚式をやりなおそうか。
人をいっぱい呼んで、もっと盛大に。」


「大丈夫なの?」


「社長夫人のお披露目だぞ。子どもができたお祝いも兼ねるんだぞ。
学生だからって怖気づくのか?」


「そんなことないわ。なんでもやるわよ。
まかしといてよ。

なんて・・・じつはうれしかったりするの。」


「えっ?」


「だって、今まで大切にしてもらってるのはよくわかっていたけど、自分をいっぱい前に出してやっていいことなんてなかったもの。

でも、ゼイルが社長夫人として人前に出ていいって言ってくれるんだもの。
うれしくって。」


「あ・・・まぁ・・・それは・・・もちろん学生だった君をかばうためでもあったけど、その・・・パーティーってよからぬヤツがいっぱい来るじゃないか。

そんなところへ君を出したくなかっただけだ。
ごめん・・・俺もけっこう独占欲が強くて、君を自由にしていないな。」


「でも、自由にしてくれたわ。」


「そりゃ、俺も親父になるんだから・・・。
クレア、これからはバックアップ頼むよ。」


「わかってるわ。だから、同じ学部を進んだんだから。」
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