記憶 ―黄昏の蝶―


「何…いいんだよ。これから世界を救おうっていう『光の子』に、このローブを預けて何が悪いというのか…。着ていっておくれ…」

「……分かったよ」

これから水に入ろうと言うのに、まとわり付いて邪魔になる…
そうは思ったが、折角の申し出を無下にも出来なかった。

それに腕を通してみると、老いた法皇の背丈が幸いし、俺には膝丈程度だった。


「……そんな格好しないでよ…」

絞り出す様な細い声。
後ろを振り返ると、カイトは相変わらず瞳を濡らしていた。


「……そんな格好…、まるで救世主みたいじゃないか…。救世主になんか…ならないでよ!!」

「…カイト…」

「知らない人にならないでよ!」


協会の正装に身を包み、
首元には、
金色の首飾りが光る。

首飾りの金属が、白い星が放つ光の熱を帯びて、ジリジリと身を焦がしていた。


俺は白い星を仰いだ。

時間と供に近付く白い星。
日に日に迫って見える球体の大きさは、空を埋め尽くす程。

その距離が近付く程に、この星の全ての水分が奪われる。



「…時間がない。もう行くよ…」

俺はカイトに声も掛けず、
水面へと近付いた。

カイトも…、
もう止めようとはしなかった。


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