記憶 ―黄昏の蝶―
友達は皆、
色とりどりの絵画を出した。
俺は、
始めの3年は、白紙で出した。
宿題をしない反抗的な子供を装っていた。
後の3年は、
耐え切れずに紙を丸めた。
その3度目のその日にやっと、
俺はじぃさんにその苦痛の真実を明かした。
「…わしの見た夢も、始めは真っ暗な闇じゃったよ…?でも違ったんじゃ…。よく観察して…」
「――したよ!!もう何年も!でも…何も無い!!」
「……何も無い…じゃと…?」
ただ呆然と俺を見るじぃさんの瞳を、俺も見つめ返した。
涙で震える手で、
じぃさんの持つ、
「白い紙」を、俺は指差した。
「……誰も、信じないんだろ…?始めの年に、白い紙のまま宿題を出したら、真剣にやれって先生に怒られた…」
「…まさか…」
涙の止まらない俺を見て、俺が嘘を付いている訳では無い事は伝わっていた。
「毎年、真剣だったよ…俺。だって!だって「それ」が!…毎晩、俺が見ている夢なんだ…」
「…真っ白な……夢じゃと…?」
じぃさんは、震えていた。
「――…誰も…居ない、何も…」
幼かった俺がその意味を知ったのは、それから少し後だった。