記憶 ―黄昏の蝶―


嘘か真か。

大地が窪んだ理由は、
遥か大昔に人々が神の怒りを買った為に起こった「天災」の為だと、今の俺たちには受け継がれている。


そのカロリスに作られた、
言わば、水上の都。

数軒の建物がひとつの島の様に在り、水面にその島が幾つも並ぶ。

それが俺たちの暮らす街だ。



「…ち。協会のケチじじぃ共め。専属の舟師ぐらい用意しろってんだ…」

ぼそぼそと愚痴を溢す。
誰にも聞かれない様に注意を払い、それはそれは小さな声で。


この街の交通手段は、舟。
普段なら沢山の舟が行き来を繰り返している。

物売りを職とする舟や、「舟師」と呼ばれる客を運ぶ事を職とする彼らもが居るはずだった。
しかし…

「…はぁ…」

闇の季節、
終業時間は早い。

協会の決めた終業時間によって、協会の一員であるはずの俺の帰路へつく術が失われる…

真面目に仕事をしてきた俺に、この仕打ち。


「…仕方ねぇな…。泳ぐしかねぇのか…?」

待っていたって、
誰も迎えには来やしない。

そう協会から支給されたフード付きの白いケープを脱ごうかと、前ボタンに手を掛けた時だった。


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