記憶 ―黄昏の蝶―
「もう…どこの水路も大分底が深い。長年、人々が堀り続けた結果だなぁ…。だからな、1番地も地質の調査ついでに極秘に少しばかり手を入れてみた…」
法皇は淡々と語った。
確かに…、
街のどこの水路も、幼い頃に潜った俺の記憶より底は深さを増している。
「それで…?騒ぎとは?」
「あぁ…。調査に出した人魚が、この下を削っていたらな…?底に近い一部の岸壁が崩れ落ちた…。この部屋に居ても分かったよ。多少揺れたからな…」
「――!?だから手を加えてはいけないと!」
馬鹿なのか?
協会本部が崩壊するぞ…!
「あぁ、誤りだった。様子を見て岸壁の確認に行かせたが、そこには穴が在った…」
「――…穴?」
「…どうも昔から在ったらしい、天然の洞穴が姿を現したそうだ…。長年の水場の流れで土が盛り、入口が隠れていたのか…定かではないが…。」
洞窟だと…?
そんな物がこの協会の地下に在るなんて、聞いた事も無い。
法皇を見る限り、誰もが知らずに過ごしてきたものだろう。
「その中へな?行かせたんだよ、人魚を…」
「――な!?いつ崩れてもおかしくない場所へ!?」
危険だろうが!
何考えてる、このじじぃ!