図書室の白川さんー星ヶ丘高校絵巻ー
岐路
二学期になった。


夏休みが終わったばかりの教室は


まだ、なんとなく楽しかった夏の余韻が


漂っていたけど、あっという間に普段通りの


雰囲気が戻ってきた。


いや、そこに「受験」という風味が加わって


ちょっと殺伐として空気も交じっている。


三年生のほとんどが、部活を引退して


しまったせいだろうか。



毎週のようにある、模試のせいだろうか。



半袖の制服が長袖に変わるころ、



オレはあけみちゃんに呼び出された。


あけみちゃんが言いたいことはわかっている。


オレは重たい気持ちで、教科指導室の扉を開ける。


「せんせー、来たよー。」


オレの軽い挨拶に、あけみちゃんはにこりともせずに


自分の机の横に置いてある、丸椅子を指差した。


くるくる回る丸椅子は、グレーのビニールカバーが


素っ気ないったらない。


オレが座ると、丸椅子はキィと小さな悲鳴をあげた。


「この間の、模試の結果。あんた、ちゃんと見た?」


あけみちゃんが、手元の資料を忙しく探しながら言う。


「えー。見たよ。さんざんだったよね。」


へらりと笑って見せたけど、あけみちゃんは笑わなかった。


眼鏡の奥の小さな目が、ちょっとだけきつい光を帯びて


こちらを見ている。
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