恋文
第1章



それは、いつもの昼下がり。

青く澄みわたる夏の空が、ギラギラとアタシを照り付けていた。

何もしたくなくて、何もできなくて学校から出てきたのは良いけれど、特に行く宛もなく、ブラブラとする。
授業なんて面倒だし、よりにもよって今日は大嫌いな進路相談。

まだ高校2年生なのに早すぎ。
進路なんて3年からで良いじゃん。

最近、茶色に染めたばかりの髪の毛を、人差し指に巻きながら、誰もいない道を歩く。
本当は染める気なんて無かったけど、周りに勧められたから、友達に染めて貰った。
茶色っていうか、オレンジに近いくらい明るい茶髪。

もうちょっと暗くても良いって言ったんだけどなぁ。

「小春は明るい方が似合うよ!」って笑っていた友達の顔を思い出しながら、炎天直下のこの空の下から抜け出す方法を考えていた。

こんなに暑いなら、学校にいた方がマシじゃね?
でも、今さら戻ったところで、生徒指導室行きなだけだよ?
いやいやいや、こんな天気に外にいたら確実に死んじゃうって。

戻るか戻らないか、頭の中で葛藤していると、足元からカサッ、と何かを踏んだ音がした。
驚いて足を上げると、そこには年季の入った茶封筒が落ちていた。

「なにこれ。」

封筒を手に取って、裏表を確認するけれど、その封筒には宛先も差出人も何も書かれていなかった。
落とし主に悪いと思いながらも、封筒の中身を取り出す。

中から出てきたのは、雨風に当たったようにボロボロになった2つ折りの白い紙。
開くと、そこには

『何度でも君を愛そう。』

と、綺麗な字で書かれていた。
やっぱり、宛先人の名も差出人の名も書かれていなかった。

ラブレター、だよね?

たった1文の簡素な手紙だけど、すごく温かい手紙だなぁ、と感じる。
今時、ラブレターなんて書いてくれる人は少ないから、こういうのって憧れるなぁ。

告白なんてLINEかメールかぐらいしかない世代のアタシにとっては、ラブレターを生で見るのは小学生以来。
それか、どっかのドラマ。

ま、ラブレターなんてアタシには無縁、無縁。と思いながら、その紙を封筒に戻し、封筒ごとポッケに突っ込む。

あ。盗む訳じゃないよ?
いくら憧れるからって、他人に向けられたラブレターを盗るほど飢えてませんって。

きっと大事なものだろうから、どっか見やすい所に置いてこうかと思っただけだよ。
あんな道端に落ちてたら、見つかるもんも見つかんないよ。

どこか見やすい場所はないかと、ぐるりと辺りを見回すと、緑に生い茂る大きな木の下に、手作り感溢れるベンチがあった。
 
 
 
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