ガーデンテラス703号


「つまんないの……」

自嘲気味につぶやいたそのとき、ぽろりと涙が一粒落ちた。


「あ、あれ。ごめん……私、別に森岡さんのこと好きだったわけでもないし。つまんないとか、ちゃんと自覚あるから平気なはずなんだけど……」

ははっ、とわざと声をたてて笑って、急いで濡れた頬を拭く。


「私たちも戻ろう。ホタルも、仕事あるでしょ?」

目元を拭いながら笑いかけようとしたとき、ホタルの両腕が私を包み込んだ。

大きなホタルの身体が私を覆うように折り重なって、きつくきつく抱きしめられる。

驚いて、腕の中で息を止めていたら、ホタルが小さな声で何かつぶやいた。


「つまんなくなんかねぇよ」

「ホタル……?」

聞こえてきたその言葉が、空耳ではないかと一瞬耳を疑う。


「つまんなくなんかない。だから、あんな見かけだけの軽そうなやつに簡単に騙されんな」

だから、ホタルがもう一度そう言ってくれたとき、胸が詰まっていっぱいになって。

嬉しくてちょっと泣きそうになった。



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