ガーデンテラス703号


どうしてそんな簡単に切り替えてしまえるんだろう。

少しの不満と寂しさを胸に抱きながら、靴を履く背中をジッと見つめる。


「いってらっしゃい」

複雑な想いでその言葉をつぶやくと、ドアへ手を伸ばしかけていたホタルが振り返った。


私を見下ろすその眼差しにドキリと胸を揺らしていると、ホタルが手がすっと伸びてきた。

頭の後ろをつかまれて、そのまま唇を塞がれる。

しばらくして、私の髪を撫でながら名残惜しそうに唇を離したホタルが、不意に私の耳元にささやいた。


「結婚する?」

「え?」

吃驚して大きく目を見開いた私に、ホタルが軽いリップ音を立ててもう一度キスを落とす。


「いってきます」

私を見下ろしてふっと目を細めると、ホタルは703号室をあとにした。



Fin



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