ガーデンテラス703号



勝手に人の誕生日を教えたシホをおせっかいだなぁと思いながらも、その厚意が少し嬉しくもある。


「たぶん。週明けにすぐ申請出してみる」

そう答えながら、口元が緩みそうになるのを堪えるのに必死だった。

にやけそうになるのを懸命に我慢して、コーヒーカップをキッチンのシンクに運ぶと、ホタルが腰をあげる。


「そろそろ行かねぇと」

「あ、うん」

ホタルを見送るために追いかけようとしたとき、ダイニングテーブルに彼のスマホが置きっ放しになっているのに気が付いた。

それをとって玄関までパタパタと走ると、ちょうどホタルが靴を履いて出かけようとしているところだった。


「忘れてたよ」

「あぁ、ありがとう」

スマホを差し出すと、それを持った腕ごとホタルのほうに引き寄せられた。

いってきますの代わりに、唇にホタルのキスが落ちてくる。

ほんの少し微笑んでからドアを出て行くホタルの背中を、私はしばらく放心状態で見送った。



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