風の声が聞こえる
はじめまして
小柄で、穏やかそうな男性。長閑な島の青年…といった感じがした。


「観光…ですか?」


「はい。傷心旅行です」


初対面の人に、何を言っているんだろう…自分でも不思議だった。


「何もない島ですが…良かったらご案内しますよ」


「でも、今、配達中ですよね?」


「配達のついでに。どうぞ、お気になさらず」


戸惑う私に、女将さんが後ろから囁いた。


「和賀さんは、島のことをいちばん良く知っているんですよ。遠慮なさらず、案内してもらうといいですよ」


「それじゃあ、お言葉に甘えて…」


私は、和賀さんと呼ばれる郵便配達員の自転車に乗せてもらい、宿を出発した。


< 16 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop