音色
目が覚めたら朝だった。

「やばっ‼︎遅刻するっ!」

がばっと立ち上がって携帯を手に取った。
よく見ると今日は土曜日。休みだ。

「あー…土曜日かぁ。よかったぁぁぁあ〜」

そう言ってソファーに沈むとくすくすと笑う声が聞こえた。
それであたしは我に返った。

「あ!具合っ!大丈夫ですか?」

そう声をかけると、きれいな男の人は大きな声を出して笑った。

「はー…朝から面白いもん見た気がする」

さっきの自分のすっとぼけ具合を思い出して顔がカーッと赤くなるのがわかった。

「でも、ありがとう。何となくだけど看病してくれたのは覚えてるよ」

「もう大丈夫ならよかったです」

「あのさ、言いづらいんだけどちょっとだけかくまってくれない?」

「は?」

「俺さ、ある事情があって逃げてるの」

「にっ、逃げ⁉︎」

「お願い!」

どうやらこのきれいな男の人にはいろいろな事情があるようだ。
だけど、悪い人には見えない。…直感だけど。

「わかりました。ただし条件があります」

「何かな?」

「名前、教えてください」

「俺?蒼井奏。君は?」

「あたしは、水城琴音です」

「琴音?」

「はい。お琴の琴に音です」

「…そっか」

少しの沈黙の後

「琴音」

そう優しい瞳をしてあたしの名前を呼んだ。
その彼の表情にあたしの胸はどきんと音を立てた。

「俺のことは奏って呼び捨てでいいよ」

「じゃあ…そっ、そ…う」

「よろしくね、琴音」

こうしてあたしたちの不思議な同居生活が始まったのだった。
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