一般人令嬢は御曹司の婚約者

「お待たせしました。ほら、隆雄」

「……………」

今までのツケが回ってきたのだろう。
本当は親父の言う事が正しいのは分かっている。
草薙は助けを請う立場だ。
でも……。

「ごめんなさい。このお話は、なかった事にして欲しいです」

「隆雄!」

俺はあいつを、諦められそうにない。
閉じたまぶたの裏によみがえる、あいつと過ごした日々。
そのどれもがキラキラしていて美しい。
言葉に出来ないほどに、心があいつを欲してる。

「そうですか、もういいですわ。ごきげんよう」

どこかの家の令嬢が冷たい言葉を残して去っていく。
親父が引き止めに行くが、出て行ってしまったらしい。
怒りをにじませた足取りで戻ってきた。

「隆雄、なんてことしてくれたんだ!」

「俺たちが今までしてきた事だよ」

「貴ッ様!」

怒り任せに胸倉をつかまれ足が僅かに浮く。
こんな状況だというのに妙に冷静だった。

「もういい、お前は俺の子じゃない。今すぐここを出て行け!」

「ああ………」

「お前みたいな世間知らず、きっとすぐに音を上げる…」

突き放すように手を離した親父は背を向け、どこかに行った。
少し閉まった首を押さえ、俺は歩く。

勘当されちまったな、これからどうしよう。
後悔はしてないが。

考えながら自室に入る。
するとまず目に飛び込んできたのは、メイドが置いていった鞄と封筒だった。

「これ……」

俺は、封筒だけ持って、迷うことなく部屋を飛び出した。
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