一般人令嬢は御曹司の婚約者
にちじょう
本日の授業終了を告げる鐘とともに、ノートを鞄に詰め一番に教室を飛び出した。
それは部活動に行くのでも、ましてや委員会などといったものに出るためでもない。
クラスメートは既に見えなくなった私の存在を嘲る。

「そんなに急いでどこにいくんでちゅかー」
「バイトとかいうやつだろ?」
「あの人貧乏人だから」
「つーか、もう学校来んなよ」
「貧乏人は貧乏人らしく公立に行けよな」
「金無いんだからサー」
「無理して学校来なくていいっつの」
「貧乏菌が移る」
「いえてるー!」
「ギャハハッ!」

下品な声を背中で聞いて、誰もいない下駄箱で鞄から出した靴をはく。
それまで履いていたスリッパを鞄にしまい、外に出る。
途中、悪臭を放つ箇所があった。
誰の下駄箱かなんて、見たくない。

確かに、私は彼らから見れば貧乏人かもしれない。
でも、貧乏人にも五分の魂。
精一杯生きているんだ。

人のよかった両親は、連帯保証人として負った借金を返すため、昼夜を惜しんで働き、過労死。
その頃には借金も完済していたが、貯蓄はなかった。
せめて高卒の学歴は欲しくて、高校に通うために猛勉強。
授業料全額免除の特待生枠を勝ち取った。
だとしても、その他生活費までは保証されないのでバイトで補っている。
そんな生活も、2年目に突入した。

別に、両親を恨んだりしているわけではない。
彼らは己の意思を貫いた。
とてもカッコいいと思う。

あれよあれよという間に事が進んでいったので、その時の事はほとんど覚えていない。
忙しさにかまけて、当時のことをゆっくり思い出すことも出来ていないのが現状だ。
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