一般人令嬢は御曹司の婚約者
鳴いた烏がもう笑う

………とんとんとん。
連続で軽い衝撃がお腹に走り、目が覚めた。
そこを見ると、雀がチョコチョコ跳ねている。

「………………」

開けっ放しにしていた窓から入ってきたのだろう。
雀は私が目を覚ましたことに気付いたのか、かわいい鳴き声を上げながら飛んでいった。
身体を起こし、辺りを見回すと、それは見慣れた小屋。
私のお腹もぽてっていない。
ぶるりと震える身体を抱きしめる。

「…………悪夢を見た」

そうだ。
昨日は、枕投げ事件の教訓を活かして、適当に切り上げて小屋で寝たんだった。
時計を確認すると、仕事に行くにはまだ早い時間を指している。

ほっとして、再び布団に転がった。
目を閉じると、先ほど見た夢を思い出す。
私は御曹司の妻になっていて、子どもまで身ごもっていた。
ほんとにまったく、酷く悪い夢だわ。

あれは誰だ。
少なくとも私じゃない。
あんな砂を吐きそうな会話、誰がするもんですか。
しかもキスって、キスって………。
あんなので照れるなんて、ただの粘膜接触でしょうが。
それに、あの御曹司を好きって、どの口が言うのよ。
鳥肌を通り越して、蕁麻疹出るわ。

『御曹司くんが大好きなんだね』という、電話越しのマスターの声を思い出す。
まさか、ね。

嫌なことは寝て忘れよう、と思ったが、ここで寝てしまうと夢の続きを見てしまいそうで。
結局、時間までごろごろして過ごすことにした。
早く行きすぎると、それはそれで迷惑になるからだ。

しかし、やることもないと、ついつい夢のことを考えてしまうわけで。
『愛巣』って何なのよ、誰と誰がラブラブなのかしら。
いかにも将来困りそうな名前じゃないの。
発音はアイスクリームのアイスだし、きっとそれを理由にからかわれるに違いない。
まったく、御曹司はろくな名前を考えないわ。
それに賛同すする私も何なのよ、バカなの、夢の中の私!
夢には己の願望があらわれると聞いたことがある。
あんなのが願望、冗談じゃない。

「私は将来、普通のサラリーマンと普通の家庭で、普通の幸せを築くんだから」

「ふぅん、じゃあここを出て行けば」

「えっ!」

私はベッドから跳ね起きて戸口を見ると、そこにいたのは御曹司。

「どうして、ここに……」

「起こしに来てやったんだよ。いつまでも寝こけてるお前をな!」
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