クラッシュ・ラブ

「こんにちは! 春野ユキ先生ですね?」
「はぁ」


誰だろう、この女性。
いや、でも雰囲気的には澤井さんと一緒……編集部の関係かな。

纏め髪のスタイルのいいその女性を見て、直感的にそう思った。そして、その人の後ろから、もう一人ひょっこりと顔を覗かせる。


「初めまして。私は少女誌の方を担当してます、三上(みかみ)と申します。そして、こちらが――」
「杏里(あんり)です! よろしくお願いします」


ぴょこっと姿を現し、ぺこりとお辞儀をしたコは、おそらくまだ十代。
くるくるとした胸まである明るい色の髪と、赤いドレスが印象的。顔は……おそらく、世間的には可愛い方なのかもしれない。


「私が担当してる新人なんです。春野先生のファンだと常々聞かされてまして……突然声をお掛けしてすみません」
「ああ、いえ……こちらこそ、光栄です」


『ファン』か……。それはすごくありがたいけど、それは“オレ”じゃなくて“マンガ”の方だと思うから。
実際に描き手のオレなんかと会ったって、もしかしたら印象悪くするだけかも。


ボーっとそんなことを考えていると、正面に立つ、杏里と言うコがニコリと笑って言った。


「うれしいです! ユキ先生とお話してみたかったので!」


……ハキハキと喋るコだなぁ。
そーいや、今日会場を何気なくみてて感じたけど、今は同業の女性って言っても、すごいキレイにしてんだな。
ああ、外崎さんとか男の人も、綺麗な身なりとか、容姿に気遣ってる人多いかも。

そこいくと――――。
やっぱ、オレって浮いてそうだし。かと言って、右倣えなんてしようとも思えないしな。

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