クラッシュ・ラブ

「今、なに食べたいスか?」
「俺? んー、なんでも食べれるな」
「それ、いっつも言ってンじゃないですか! もう。ね、ユキセンセ」


えっ。カズくん、そこでユキセンセに振っちゃうの?! 大丈夫なの?!


不意打ちのパスに、わたしは驚いてユキセンセの動向を窺ってしまう。
わたしを含め、3人の視線を受けるセンセは、なおも動かず無言のまま。


……うそでしょ。いつもこんななの? カズくんも心折れたりしないの? 自分の言葉をスル―されるって結構キツイよ……。


自分が投げかけた言葉の沈黙ではないのに、わたしはだんだんつらくなってくる。
どうしていいかわからなくて、左の座ったままのカズくんの顔を見ようとしたときだ。


「……考えてる、考えてる!」
「今、先生の脳内はなんだろうなー。寿司か? カレーか?」
「いや、寝不足のときの寿司とかカレーって、きつくないスか……」


わたしの心配をよそに、カズくんとヨシさんがニヤニヤしながら楽しそうに小声で会話を始めた。


「考えてる」? え? もしかして、センセが今、無言なのって――――。


カズくんの言葉に、再びユキセンセに視線を移そうとしたときに、正面から声がした。


「……親子丼」


……わたし、ここに来て数時間。だけど、この空間のせいでおかしくなったのかもしれない。

『親子丼』。

そのなんとも間の抜けた単語にもかかわらず、なぜか心を掴んで離さないその響き。
ここの空間だけじゃない。きっと、ユキセンセの声がそのワケなのかもしれない、って、漠然と思った。

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