クラッシュ・ラブ

「あ。その画材、どうですか? 使いやすいですか?」
「……まぁ」
「わ! 丸ペンじゃなくて、ミリペンでそういうとこ、描くカンジですか?!」
「……」


後半、雪生は返事すら返さなかった。
その沈黙は、どうやらいつもの集中しているから、っていう理由ではなさそうだけど。

雪生は、わたしにこの場にいて欲しいようなこと言ってたけど、この様子じゃ、わたしがいてもいなくても変わんなかったんじゃないのかなぁ……。


完全に蚊帳の外なわたしは、キッチンから二人の様子を感じてそう思う。

だけど、もしも、雪生がそう言ってくれなくて、杏里ちゃんとふたりきりでいるって考えたら――――わたし、ちょっとイヤだったかも。

両想いになったからって、急に嫉妬心が露わになる自分が滑稽だ。
あんまりその先を想像したくなくて、わたしはティーポットをごしごしと洗った。


「ユキ先生の下絵って、結構さっくりなんですね! あたし、しっかり描かなきゃペン入れられなくって」


ふと、杏里ちゃんの声が違う場所から聞こえる気がして顔を上げた。
すると、いつの間にか、雪生の後ろに覗きこむようなカタチで近くに立つ姿が目に入った。


「隔月だと、やっぱり時間ないですよねぇ。あたし、まだ連載させてもらったこともないので、未知です」


わ! 家に入って来て、今までなんにも思わなかったけど! 杏里ちゃん、胸見えそうじゃない?!
ああ! そうか! 前屈みになってるから、隙間が出来ちゃってるんだ!
どうしよう? こういう場合って、伝えるべき? やめるべき??


同性のはずのわたしが、頬を赤くして慌てる。
とりあえず直視出来なくて、手元に視線を戻したら、ちょっと冷静になれた。


……もしかして。もしかして、だけど……。
――――わかってる?

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