クラッシュ・ラブ

その「これ」とか「こういうこと」とかがピンとこないわたしは、きっと間抜けな顔をしてたんだと思う。
わたしの表情を汲み取ったカズくんが、笑いながら補足してくれた。


「いやいや。そういう、気遣い出来る“アシスタントさん”がやっぱり必要なんだよね、って話!」
「え……? こういうのはアシスタントって呼ばないんじゃ……」
「いわゆる“メシスタント”ってやつだよ。あ、気分悪くしないでね? 俺ら、ありがたいと思って言ってるんだよ」


“メシスタント”……。初めて聞いた。そんな言葉。ホント、初めて知ることばっかりだなぁ、ココ。


そう思っていたら、背中にあるオーブンから、ピーッと音が鳴った。


「で? なになに?」
「……蒸しパンとパウンドケーキ」


カズくんの質問に、わたしはちょっと照れながら答える。
すると、完全に手からペンを離して、カズくんが両手を上げて喜んだ。


「手作り! マジ何年ぶり! センセ! ちょっと休みません?!」


えっ! アシスタントの、しかもヨシさんよりも後輩であろうカズくんが、ユキセンセにそういうこと提案出来ちゃうの?!

ドキドキと、向かって左側に見える、ユキセンセへと視線を移す。

パソコンの画面が反射したメガネのレンズが、さらにわたしの緊張度を増した。


か、カズくん! ユキセンセ、それどころじゃないんじゃ――――。


< 24 / 291 >

この作品をシェア

pagetop