クラッシュ・ラブ

「……そんなこと言って。ただの仕事だったら、受け取らないから」
「全く、どっかの反抗期のガキか、お前は。またこの間みたく急にキレんなよなー?」
「き……キレる……?!」


雪生には似つかわしくない言葉で、思わずそういう澤井さんを見て口から出てしまった。
すると、澤井さんが手を止めて、わたしを見ながら言った。


「そー!! もうね。睨むわ、大声出すわ、胸ぐら掴むわでね? 怖いってもんじゃなかったんだよ?」


……たぶん、ちょっと脚色して言ってるんだよね? まさか、雪生が胸ぐら掴んで睨むなんて――。

心でそう決めこんで雪生の方を見ると、わたしだけじゃなく、澤井さんからも目を逸らす始末。その様子を見て、澤井さんの言ったことは全て事実なのだと悟った。


「いやいや! でも新鮮だったよ。担当してきてずっと、キレたことなんかなかったからな」
「あ……!」


もしかして、さっきアキさんが言ってたのって、そのこと?!
そう言われたら、確かにこの前雪生からも、『澤井さんとちょっと揉めた』風なこと聞いたし! そうだったんだー……ん? でも、待って。そこにわたし、関係なくない?
なのになんでアキさんは、わたしをべた褒めしたんだろう。


“答え”がわかった子どものように、晴れやかな顔をしていたかと思えば、突然また“難題”に取りかかっているかのように難しい顔をした。
澤井さんは、わたしの顔を見て小さく笑った。


「美希ちゃん。この間は誤解を招くようなことを言ったけど、あの言葉だけを受け止めないで欲しいんだ」
「え……?」

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