クラッシュ・ラブ

わたしの声掛けにもピクリとも動かない。ハラハラしたけど、胸のあたりを見たらちゃんと呼吸はしてる。
それを確認し終えたとき、その態勢のままのユキセンセからなにか聞こえた気がした。


「……え?」


あまりに小さく身近な声に、思わず耳を近づけながら聞き返す。
すると、机を挟んで向こう側にいるユキセンセが急に動き出した。立ち上がり、わたしの側まで歩み寄ると、辛うじて開いている目でわたしを見下ろして言った。


「集荷……来たら、出して」


それを言い終わると、ユキセンセは本当に文字通り“力尽きた”ようで。後ろのソファにぼふっと音を立てて倒れ込んだ


しゅ、集荷? って、自宅に来るの? え? 梱包されてる原稿(あれ)をそのまま渡せばいいだけ?


頭の中には疑問が何個もぐるぐる。
だけど、カズくんとヨシさんは速攻寝て。今、眼下には死んだように横たわったユキセンセ。

確認できる人が誰ひとりいない。

唖然と、静かな昼下がりのリビングに一人立ち尽くす。


「……ど、どうしよう……」


何度考えて、辺りを見回しても状況は変わるはずもなくて。
結局、ユキセンセの言葉を信じて、『配達員の人がくるはず』と理解した。


それにしても……。


足音を立てないように机に歩み寄ると、さっきまで戦場だったのがわかるように散乱している。
転がってるペンに、散らばった消しゴムのカス。コピー用紙や資料のような雑誌と、漫画が数冊。
唯一きちんとされてるのは、一人一台のパソコンがシャットダウンしてあること。


この辺は片付けても大丈夫かな……怒られたりはしないよね?


恐る恐るペンに手を伸ばし、拾い上げると近くのペンスタンドにそれを戻した。


みたことないようなペンばっかり。
こんな、0.4とか1.2とか。細かくミリ刻みで出されてるものってあるんだなぁ。そしてそれを使い分けるなんて、細かな作業だよなぁ……やっぱり。


そう思ってちらりとユキセンセを振り返る。

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