ときどき
「じゃあ、お邪魔しました」
「いや、ごめんねー」
「そういえば弓弦くん、なんで実里と友達になったの?」

足立家の兄妹一同は、律儀にも揃って玄関まで見送りにきた。謙也くんも戻ってきたのだ。
亨くんの問いに、私は少し考えたが、一言答えた。

「渡部さんをいじめたから」
「いやおまえ、何やってんだよ、弓弦くん!」
「じゃあねー」
「おい!」

エプロンを外した足立くんは、謙也くんを遮るようにドアを閉めた。
彼は、結局私を駅まで送ってくれるようだった。
伯父さん達にケーキをあげたくないというのはなかなか本気らしく、私が食べきれなかったあと三つのケーキを押し付けるために足立くんはそれを持ってきていた。
いろいろと気になるが、私が怒られることにだけは、ならないでほしい。

「そういえば足立くん、家の料理は全部やってるんだね」
「ああ、俺が一番うまいし」
「夕食も、朝食も?」
「あと、弁当。全員分ーーー好己は大学生だから食堂に行く時もあるけど」

私は、ふと思い出した。

「たこさんウインナーとか、あれ、全員分入れてるんだ」
「ああ、別に絵美の分だけでいいんだけどな。あいつ、切れ込み入れるの見るのが好きみたいで」

ああ、なんだ。変な趣味かもとか思ってたのに。
地味に妹思いっぽい。
いやだいやだ、足立くんから慈愛を感じるとか、絶対おかしい。

「じゃあ、ここで」
「あ、うん。ありがとう」

私は改札に定期をつっこんで足早に通り抜けた。ネギも豆腐も忘れてない。

「浅野」

ふと、足立くんが私を呼んだ。

「水、ありがと」

彼にお礼を言われたのは、それが初めてだった。
< 25 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop