ときどき
私は、呆然としているままの志乃と真由に背を向けて、歩き出した。
自然と、早足になる。
だめだ、今人に見られたらやばい顔をしている。

階段を一段飛ばしに駆け下りた。
意地で持ち上げていた顔を、ようやく俯かせる。
教室には戻れない。荷物を置いて帰るのも考えなしがすぎる。
中庭にはあまり人がいないはずだ。そこに行こう。

靴をかえる暇も惜しく、私は上履きのまま中庭に踏み込んだ。
学校の中庭は芝生広場になっていて、周囲を木に囲まれた自然溢れる憩いの場となっている。ベンチなどもあって憩うにはまさにうってつけ。
と思いきや、虫が多いというのでこの時期は特に不評。
目星を付けたとおり、人っ子一人いない。
奥まったところにある、青々とした葉をつけた大きな木の下を選んだ。
うずくまったとたん、堰を切ったように涙が溢れ出た。

やっぱりあんな子達でも嫌われたくなかったのだ。
未だにそんなことを考えている自分がむかつくけれど。
二年以上付き合ってたらさすがに分かる。二人も悪いところばかりじゃない。
お互い、付き合い方に誠意が無かっただけなのだ。
足立くんや渡部さんのことを私よりも不器用だと思ってたけど、違うのかも。
私の方がよっぽど不器用だ。

しばらく一人でぐすぐすと泣いていると、前方から草を踏みながら近づいてくる気配がした。
運動直後のように、短く息を切らしていた。
慌てて涙をこするも、顔を上げる気もおきず、俯きながら黙ってその足下を確認する。
砂埃やらなんやらで見事に薄汚れた上履きだった。
汚れには覚えが無いが、上履き自体には見覚えがあった。
でも、いや、まさか。

彼は私の前まで来ると、大きく息を吐いた。
その息の吐き方も、覚えがある。

彼は、屈むと黙ったまま私の頭の上に手を置いた。
不思議とその温かさにまた涙が誘われて、私はたまらず顔を更に深く俯かせた。

足立くんは、依然として言葉を発しないまま、しばらくそこでそうしてくれていた。
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