きっともう大丈夫
家に着くと明良の靴が玄関に置いてあった。
いつもは9時半以降に帰ってくることが多いので私は慌てて靴を脱ぐと
リビングへと向かった。
だが、リビングには誰もおらず明かりもついていない。
バスルームにもいる気配がない。
寝室は?と寝室のドアを開けるとベッドに腰掛け頭を抱えてる明良の
姿があった。
「明良」
私の声にびくりと反応する。
いつもと様子が違う。何か仕事でミスでもしたのだろうか・・・
こんな明良を見るのは珍しかった。
明良は私の顔を見るといきなり立ち上がり私を抱きしめた。
「ちょ・・ちょっとー明良?どうしたの?」
なにがなんだかさっぱり分からない
だが明良の様子は明らかにおかしかった。
「ねえー。何があったの?」
私のしつこいくらいの質問に抱きしめてた腕に力がぬけ私からはなれベッドに腰掛ける。
「沙希・・・」
「何?」
「ご・・めん」
何がごめんなのかわからずキョトンとしてしまう。
「何がごめんなの?」
でも明良はごめんという言葉を繰り返すだけで理由がわからなかった。
「ねえ!落ち着いて!何があったのか話して?」
「こども・・・が・・・出来ちまった・・・」
何言ってるの?
「私は妊娠なんかしてないよ。子どもって何?」
「・・・・あいつが・・・俺の子を妊娠したって言ってるんだ。」
あいつ?妊娠?何を言っているの?
私はその言葉に全身から寒気がした。
「ちゃんと・・・・わかる様に・・・説明して」
「・・・・菜々美と・・・1回だけ・・・浮気した」
「明良・・・何いってるの?浮気って・・・浮気って・・・うそでしょ。」
目頭が熱くなり明良の顔がぼやける
手が震え、足もがくがく震えて立っていることがやっとだった。
「俺は!沙希だけなんだよ。菜々美とはつい出来心で・・・」
「いつよ・・・いつ浮気したのよ!!!」
震えそうな声を必死耐えた
明良の話で分かったが、詩織の出産で私が病院にいる時だった
それを聞いたら
何だか泣きたいのに笑うことしかできなくなってた
だってそうでしょ。
新しい命が誕生している時に、別の場所で新たな生命を作っちゃったんだよ
私ってどれだけ残念な女なの?
もう笑うしかないでしょ。
そんな私をみて明良が抱きしめようとするが私は明良を睨みつけた
「さわらないで!」
私は崩れるように床に座り込む。
もう明良の顔を直視することもできなくなってた
あんなに、あんなに私たちは愛し合ってたのに
「俺には・・・くっ!お前しかいないんだ。だから子どもはおろしてもらう。だから・・・」
「やめて!」
もうこれ以上惨めになりたくない。

私は涙を服の袖で拭うと明良の目をしっかり見た
「明良・・・・離婚して」
明良は納得できず拒否しようとする。だけど私の決心は固かった。
「子どもには・・・子どもには罪はないのよ。私たちの身勝手な我儘で
授かった命をないものになんてできやしないのよ!あなたにはこの責任を背負わなきゃいけないの。子どもには母親父親が必要なのよ。
菜々美とよく話し合って今後の事を話し合って・・・・」
「沙希!でも俺は・・・」
私は首を横に振った。
明良はこぶしをベッドに何度も叩きつけた。
その背中が小刻みに震えていた
私はフラフラの体でなんとか立ち上がるとそのまま寝室を出た。
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