BitteR SweeT StrawberrY
         *
仕事帰りの人たちで混み気味の店内。
そのカウンター席で、あたしと美保は、いつもの通りカフェラテとドリアを注文する。
ほんとに入社した時と全然変わってないなって、なんだか嬉しく思う。
美保は、カウンターに両肘をついて、お水の入ったグラスを指さきでこすりながら、あたしに向かってこう言った。

「それで?何があったの?」

「ああ・・・うん」

あたしは思わず言葉を濁した。
いくら美保でも、ケイとのことは・・・絶対に言えない。
まさか、大輔にプロポーズされたけど、それにはまともに答えられなくて、同じ女性のケイと、なんだかそんなことしてしまったとか、言えるはずもない。
あたしは少し考えこんで、こう答えた。

「あのね・・・大ちゃんに・・・」

「うん」

「プロポーズされた・・・・」

「おおおお!おめでとう!!」

美保は、くったくなくそう言ってくれた。
だけどあたしは、複雑な思いまま言葉を続けた。

「ありがとぉ・・・」

「それ、すごい良いことじゃない?嬉しくないの?」

「ん?いや、それは嬉しいよぉ・・・・嬉しいけど、まだ・・・・返事してないんだぁ」

「え?!どうして?」

「どうして・・・・うーん、どうしてかなぁ?」

「村木さん、いい人じゃん?優しそうだし、話面白いし、なんか、結婚したら、良い旦那さんになりそうじゃない?」

「うーん・・・・そうなんだけど・・・」

「何か不満があるの?村木さんに?」

「ん?これといってないんだけど・・・・」

「うん」

「あたし・・・このまま、平凡に結婚して・・・平凡に子供を産んで、子育てして・・・おばぁちゃんになるのかなぁ・・・って思って・・・」

「うんうん・・・」

「あたしさ・・・よく考えてみたら、人生の目標みたいなの、全然なくてこれまで生きてきちゃって・・・
ただ、両親とか友達とか、これいいよ!これがいいよ!って言われて、そのまま、進んできちゃった気がして・・・」

「あぁ・・・・」

「美保みたいに、こういう仕事したい!って何かも・・・全然、なかったから・・・
このまま、結婚しちゃって・・・いいのかなって・・・」

「うーん・・・」

美保は、少し難しい顔して、少しの間考えこんだ。
そして、グラスを弄んでいた手を止めると、じーっとあたしの顔をみて、真剣な声で言うのだった。

「きっとね~・・・優ちゃんは、真面目すぎなんだと思う。真面目だから、周りの期待に応えなきゃ!って思いすぎだったんだと思う」

「そ・・・そうなの、かな?」

「絶対そうだと思う!結婚ってさ、ぶっちゃけ一生ものじゃない?結婚してちゃんと生活できるだけの資金があるかとか、そういうってすごく重要でしょ?」

「う!ま、まぁ・・・確かに・・・」

「村木さんはそういうところも、今のところ問題はないと思うよ。旦那さんにするには、もってこいの人だと思う」

「う・・・うん」

「だけどね・・・・」

「うん?」

「優ちゃんて、恋愛経験薄いじゃない?」

「うっ!」

思い切りほんとのことを言われて、あたしは思わず唸ってしまった。
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