お蔵入り書庫
 
「あの、ぶつかってしまって申し訳な……っ!?」


 そこまで言いかけた途端、男は馴れ馴れしくも和泉の肩を抱き、耳元で声を潜めた。


「あのさ、10メートルくらい後ろにいるヤツ、あんたの知り合い?」


 低い上に不思議な艶のある声に、和泉は身体を強張らせる。


「ぃ、いえ、違う、んですけど……」

「すっげー挙動不審でウケるわ。あんた着けられてるみたいだけど大丈夫? つか、俺とどっかで会ったことある?」


 初対面の、いかにも怪しい男に大丈夫などと声を掛けられても、正直なところ返答に困る。しかもナンパ染みた文句まで付けられてしまえば、更に迷ってしまう。


「……初対面だと、思いますけど」

「そっか? 俺の勘違いか。でもあんたみたいな綺麗な人だったら忘れないと思うんだけどなぁ……」


 和泉の肩を抱いたまま男は考え込む。


「あの、俺は男ですけど」

「ん? 男にだって綺麗なヤツいるだろ。けどまぁ、気に障ったなら謝るよ」


 そう言いながら、男は和泉を抱いたまま歩き出す。

 ここが何処とも分からず歩いていた和泉は気付かなかったが、突き当たりを曲がると左右どちらへ行っても数十メートル程で行き止まりになっていた。


「あ、あの、どこへ……」

「ココ、入って」


 そう促されたのは、閉店しているテナントだった。不安要素しか無いが、肩を抱かれてしまっている今、和泉に逃げ道は無い。仕方なく促されるまま中に入ると、男が素早く扉を施錠した。

 和泉の鼓動が、ドキリと跳ね上がる。

 けれど、嫌な想像が走り出すより早く、室内に明かりがついた。

 
……to be continued later!


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