恋の逃避行は傲慢王子と

 会社が潰れずに済むのだ。普通なら、それはとても喜ばしいことである。しかし、アビーはいまだ目をつむり、思案顔のままだ。はしばみ色の目は現れない。

 彼女はどう見ても嬉しそうではなかった。


 アビーにとって、父親の会社が、『倒産寸前』よりも、この続きが問題だったのだ。



「か、会社が潰される危機はなんとか脱出できそうなんだけれど……」

 アビーはひと呼吸置き、話を続けた。


「相手はわたしと結婚することを条件に出してきたの」

 いったいどういうことなのか。自分の会社を守るために、よく知りもしない相手に実の娘を差し出したのだろうか。

 彼女の父親はまさかそこまで愚かだというのか。


「それで? アビーのお父さんは何て言ったの?」

 クローイは眉間に皺を寄せ、尋ねた。



「いっ、生きていくためには仕方がないって……」


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