カットハウスやわた
「ごちそうさまでした。いろいろと……ありがとうございました……」


姿を見せた八幡さんに、私は、深々と頭を下げた。


「いいえ。ここの商店街は、隠れた名店が多いから、また遊びに来てくださいね」


私は、はい……とは言わずに「ベーカリーに寄って帰ります」と言って店を出た。


アーケードの時計は、六時半を少し過ぎたところ。土曜日の朝なのに、ベーカリーは朝早くから賑わっていた。


私は、焼きたてのパンを買ってから、駅へと向かった。


今夜、正樹と話をしよう。そして、月曜日の朝一番に辞表を出そう。


「ヨシッ」


青い空を見上げて、ひとりつぶやいた。


綴喜真矢、二十五歳の春。


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