カットハウスやわた
そのうち、喫茶店のような外観の散髪屋に着いた。


「八幡さん、よっぽどコーヒーがお好きなんですね……」


「どうして?」


八幡さんは、私に座るように促しながら、聞き返した。


「だって……散髪屋の外観を喫茶店みたいにしているから……」


「ああ!」


八幡さんが白い歯を覗かせる。色黒の顔に白い歯。美容師というよりは、海の男って感じがした。


「ここは、もともと、喫茶店だったんだ。だから、外観だけ喫茶店。コーヒー、淹れてくるね」


後ろ姿を見送った。どこの誰だかわからない女に、コーヒーを淹れてくれるなんて。しかも二回も。


しばらくすると、コーヒーと焼き菓子を持ってきてくれた。コーヒーカップを差し出す、左手が気になった。


「このクッキーは、ベーカリーで売ってるんだ。よかったらどうぞ」


「あの……ここにお住まいなんですか?」


「そう。二階に住んでる」


「奥様は……」


私は、八幡さんの左手の薬指に視線を送った。




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