カットハウスやわた
本当に好きな人
「真矢、やり直そう」


「こ、ここでそんな話、されても……」


困る!きっと、接骨院の息子が窓拭きついでに聞き耳を立てているだろうし……。


「綴喜さん、どうしたの?」


ドアが開く音がしたのに、入ってこない私を心配したのか、八幡さんが外に出てきてしまった。


正樹は、パッと手を放した。私は、ふたりの顔を交互に見た。睨みあっている……ようにも見える。


「八幡さん」


えっ?正樹、どうして八幡さんの名前を知ってるの?……ああ、店の名前が『カットハウスやわた』だから、か。


「暑いですから、お話しがあるなら、どうぞ中へ……」


「これから仕事ですので、手短かに話します。真矢を月光町に連れて帰りますので、近々こちらを退職させます」


「は?正樹⁉︎」


思いもよらない正樹のひと言に振り向くと、真顔の正樹が言った。


「真矢、仕事が終わったら、そこの喫茶店で待ってて?なるべく早く行く。これからのことを話そう」


正樹は、それだけ言うと帰っていった。なんて自分勝手な男なんだ⁉︎


「綴喜さん、暑いから、中に入って?」


私の体が熱いのは、暑さのせいだけではなかった。

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