家出少女と風花寮
風花寮

車窓から、舞い散る桜が過ぎるのを眺める。

数時間前までビルなどの建造物が多かったのが、何度かの乗り換えを経て、木々の緑に変わる。

電車の速度が遅くなり、やがて止まった。

鞄を肩にかけ、キャスター付きスーツケースを転がす。

温まった座席を立ち、別の車両に移る。
これが最後の乗り換えだ。
人が疎らなので、手近な座席に腰掛ける。

乗り換え終わりを待っていた電車は走り出した。

一定の振動に揺られながら。
目的地へと進むそれ。

鞄から茶封筒を抜き出し、確かめるようにして中身を開いた。


『風花寮入居のお知らせ』

で始まる案内文。

風呂トイレ共同、2食まかない付きで入居料月2万円。

見学に行かずに決めたから、これから初めて行くことになる。
それには添付された地図もついてるし、スマホの地図機能もあるから迷わないと思いたいのだけれど。
………駅を出たら川を渡って、まっすぐ進んで………。

電車の揺れが遅くなっていき、やがて止まった。

『終点若草、終点若草です』

車内アナウンスより早く、ドアが開いたそばから人が我先にと降りていく。
私はお知らせを丁寧に仕舞い、混雑を避けてのんびり電車を降りた。

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