家出少女と風花寮
2号室

青木理央という男

お昼過ぎ。

校長先生、副会長、その他偉い人の挨拶をちくわ耳で聞き流す入学式を終え、発表されたクラスへ入る。

すでに騒がしい教室。
中学からの付き合いなのでしょうねきっと。

黒板に貼り出された席順の紙を確認する。
一番前の、左から二番目に福井ゆきの名前があった。
これはチャンスだ。
角席なら、話しかける相手は隣と相場が決まっている。
そこを私は勝ち取ったのだ。
角席、つまり左隣の人の名前は、水尾杏奈。
彼女はきっと、話し相手たる私を待っているに違いない。

お待たせ、今行くよ。

私の事を知る人が誰もいないこの地で、友達をたくさん作ろうと決めてきた。

深く息をはき、心を落ち着ける。

まずは『隣だね、よろしく』でいきましょう。

気合を入れて席に着くと、水尾さんは後ろの席の人と話していた。

「……………………」

どうしよう、話しが盛り上がってるようだし、話しかけづらい。
右隣の人は。

「……………………」

隣の人と話し中。
だったら、後ろの席の人はどうだ。
上半身を捻ると、後ろの席の人の背中が見えた。

「………」

あ、だめだわ。

決意なんてものは霧散した。
人生うまくいくはずもない。

やっぱり私には、独りがお似合いなのかもしれない。
第一、今まで友達のいなかった奴に、今になって友達ができるなんてそんな都合のいいことないよね。
だって、こうやって、机と顔を突き合わせている方が楽だから。

周囲の楽しそうな声に惑わされないよう、必死に言い聞かせていた。

友達なんて、いなくていい。
学校には勉強しに来てるんだ、友達を作りに来てるわけじゃない。
友達なんてものがいたらどうしてもお金がかかる。
話しを合わせるために、興味もないアイドル雑誌を買ったり。
それを読んで覚えたり。
自分のために使える時間をわざわざ友達なんかに使うなんてもったいない。

何度も何度も繰り返して。

「盛り上がってるなー」

担任教師が入ってきたとき、救いが訪れたと思った。
ぱたぱたと生徒が私語をやめていく。
私の孤独感が幾分か和らいだ。

「初めまして、今日からこのクラスの担任になる前田剛(まえだつよし)だ。よろしく」

それから、先生の趣味の話やらあったが、覚えていられない。

生徒一人一人の自己紹介もまた然り。
聞いても係わることはないと諦め、聞かなかった。

「明日から通常授業が始まるから、登校初日から忘れ物の無いようにな。じゃあ、図書室で教科書を受け取った人から帰っていいぞ」

解散の一声で、動き出す生徒達。

ある者は教室を出て、ある者は担任に絡みに行き、ある者はグループで固まる。
私は、教室を出ることを選択した。

ここにいたって、することない。

人の流れに乗り、図書室へ行く。
順番が来たら、名乗り、渡された二つの紙袋を掴んで家路につく。
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