家出少女と風花寮
数秒の後、ゆっくり開いた扉の先には。

「……まあ、入ってよ」

天使の輪が見える黒髪をピンで横に流した、アーモンドアイの美少女がいた。

「………あ、部屋間違えました………」

恥ずかしい……。
勇み足とはこのことか。

「ちょっと、福井氏、間違えたなんて言わないで………!」

逃げようとする私の腕を美少女が掴んできた。

「すみませんごめんなさい、悪気はなかったんです!」

「僕の部屋で話そうと言ったじゃないですか!」

「えっ……」

すぐ傍で、青木君の声が聞こえた。
足を止めると、美少女の拘束が解ける。

「本は横に片付けておきましたので、どうぞ」

美少女に促され、部屋に入った。

マンガが隅に積みあがっている。
その中には私が昨日読んだものもあって。
……あ、ここ青木君の部屋だ。

部屋を間違えてなかったことに安心した。
だったらこの人は……。

振り返った時にいたのは、美少女じゃなく、青木君だった。

「驚かせてごめん。片付けするのに邪魔だったから、眼鏡外してたんだ」

眼鏡を着け外しして、さっきの美少女と見慣れた青木君が同一人物だと教えてくれる。

「気付かなくてすみません……」

「慣れてるから、気にしないで。眼鏡ひとつでだいぶ印象変わるよね」

なんでもないことのように笑ってくれる青木君。
こんな顔見てると、決意が揺らぎそうになる。
でも、言わなければ。

「あの、私、青木君に謝らなければならないことがあります」

この場で正座し、額を畳につける勢いで頭を下げた。

「昨日からずっと、同志って言ってくれたけど。私っ………青木君の言っていることがわからないんです、ごめんなさい!」

しばらくそのままの体制でいたが、反応がない。
おそるおそる顔を上げると、青木君は何かに耐えるように目を閉じた。

やっぱり、嘘ついてたこと、すごく怒ってる……。

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