家出少女と風花寮
3号室

中島健吾という男


一月経っても、青木君の勢いは止まらない。

移動教室中。
じゃれ合う男子を堂々とストーキング。
ただの向かう先が一緒の移動教室の筈なのに、彼がやるとたちまちストーキングの様相と化す。

なんたって言動が。

「ねえねえ、さっきの見た!? 教科書で頭ポン! 頭ポン!! ポンする時のツンデレもいいけど、ドジっ子のあの照れた感じもいいいぃぃ!!」

私の右腕が青木君に絡め取られる。
あまりの締め付け具合に、痺れて、血流が止まりそうだ。

「青木君、落ち着いて……」

「もえええぇぇぇ!」

ガリ勉の外見で眼鏡取ったら美少女の、中身腐男子青木理央。
公共の場でも自重しない勇者。

救いは、これでも周囲への配慮を忘れず小声である事。
曰く、カップルのイチャコラを見守るのみ。
決して邪魔してはならないのだそうです。

青木君を片腕に巻きつけ、クラスメートの後ろをついていくと、前から体操服の集団がやって来た。

「健吾くん、今日のシュート凄かったね!」

「レディー達の応援があったからさ」

「キャー!」

「ドリブルも素敵だったよ!」

「レディー達にカッコ悪いところなんて見せられないからね」

「キャー!!」

長身の男子を団子のように囲う女子達。
その彼に、仲良しな子が多いことを羨ましがりつつも、少しばかり同情した。

片腕に青木君だけでも歩きづらいのだから。
四方を埋められると邪魔な事この上ないよね。
足踏みそうだし。
体操服をあっちこっちから引っ張られ、伸びて破れそう。
それでも爽やかに受け応えって、すごいなー。
へろへろになった体操服が気になって仕方ないよ……。

一体どんな人なのだろうと気になって、見続けていると。

「…………ぁ」

「……………」

すれ違う際、女子供の隙間から見えた。
髪型はいつもと違うけれど、甘いマスクのたれ目に泣きぼくろ。

風花寮の住人。
中島健吾その人だった。











「ただいまー」

「ただいまです」

「おっかー」

青木君のBLウォッチングに付き合い、風花寮に帰ると、居間に中島君がいた。
へらへらした顔が気持ち悪い。

「珍しいね、中島君がこんな時間から寮にいるなんて」

青木君が不思議そうに尋ねる。

確かに、いつも夕飯ギリギリまで帰らない中島君。
時々夕飯のお断りを入れる、遊びまわってる中島君が、早くからいるなんて珍しい。

「んー、今日はぁ、特別」

「特別って?」

「ふたりに聞きたいことがあってさ。ここ座んなよ」

中島君は、卓を挟んだ向かいに促した。
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